ルーペと鳥瞰図

日記と作り話のようなもの。

Day 30

2日前の20時すぎ、近所のみんなで医療従事者に拍手が終わろうかとしている時、フランス国家のマルセイエーズのイントロが流れ出した。マクロン大統領の国民への演説が始まった。1ヶ月の外出禁止令の延長、5月11日からの段階的な外出禁止の解禁が発表された。

大統領の会見の隣には手話通訳士がおり、画面の下にはマクロンが喋るたびに字幕が流れていく。字幕を打っている人がいるのだろう。typoがあったとしても、すぐに戻って直し、すぐに演説に追いついていく。

窓を開けて拍手したばかりだから、近所の人たちの大きなリアクションが聞こえてきたりする。サッカーの試合中継みたいだった。

 

この期に及んで、私はフランスの大統領制を分かってなかったんだなぁと思い知る。国の首長として、大まかな方針を決めていく大統領。それにしたがって、政策や細かい整備を整えて決めるのが首相をトップとした政府。だから、マクロンの演説は曖昧な点があったりしても、「これは政府が近日中に詳細を発表する」なのかと。

うちの近所には、20時の拍手の後に「マスクが欲しい!(On veux des masques !!)」って叫ぶ人たちがいるのだが、大統領の発言には「フランス人ひとりひとりがマスクを手に入れられるようにする」というのがあったけれど、蓋を開ければ、リスクにより接する可能性がある公共交通機関の運転手などが対象だったりする。国内でも始めたマスク生産がどこまで追いつくのかがまだ見えないというのも、あるのだろうけれど。

 

私はマスクは、日本から持ってきた2枚のハンカチを使って、輪ゴムを通し、キッチンペーパーをはさんで代用している。買い物に出るのも、5日に一回くらいに限られているから、全然間に合っている。

 

パリのアパルトマンは古い建物が多い。うちのも例に漏れず、とても古くて、壁は薄いしいろんな音が聞こえてくるんだけど、こういう時に、上の階のマダムの「もしもーし!」と電話に応対する声や、隣人の習い始めたばかりの(に聞こえる)トランペット、油を挿せばいいのにと1年前から思っているどこかの階のドアの開く音が聞こえてくると、生活は動いているなぁと思ったりする。

 

空は透き通った青で、太陽はさんさん。