ルーペと鳥瞰図

日記と作り話のようなもの。

沈黙

久しぶりに村上春樹の『レキシントンの幽霊』を読み返している。

 

(ここからネタバレです)

 

その中の「沈黙」を読んでいると、なんと示唆に富んだストーリーなんだと気づく。

 

 

 

長年ボクシングジムに通っている大沢が、人は殴ったことはあるかと聞かれ話し始めるのだが、大沢にとって一番嫌いな種類の人間として挙げられるのが青木という男だ。大沢は、「青木みたいな人間はどこにでもいます」という。一方で、青木の持っている「機会が来るまでじっと身を伏せている能力、機会を確実に捉える能力、人の心を実に巧みに掌握し扇動する能力」は誰彼にも備わってる訳ではないのだという。大沢にとって本当に怖いのは、「青木のような人間の言い分を無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中」だ。その大沢の言う「無責任な連中」の夢を見ると、大沢にとってそこには沈黙しかない。

聞き手の「僕」は、大沢に最初の質問をしたあと、この話が終わるまで間ずっと口を挟まない。話し終わった大沢は、少しの沈黙の後、ビールを飲みに行こうと誘う。そこで物語は終わる。

青木のような人間、彼を無批判に信じてしまう人々、それをずっと聞いている「僕」。この話をするのを本当はいやだと言う大沢は何者何だろう。