Day 44
フランスでは、5月11日に段階的に外出制限措置が解除されていくことになった。首相から政府の計画が提出され、下院で採決されるまで3時間くらい。議論されたが、やはり中央集権国家で与党が過半数を持っていると強いのか。間接民主制でも同じことなのか。とにかく、日常の外出は証明書なしで済みそうだ。
外に出ないと、人間関係のストレスがすごく少ない。それは、一緒に住んでいる人との関係がうまくいっているという裏返しでもあるのだけれど。通勤はしなくても良い、初めて会う人も少ない。私は、生活において必要とされる社会性という面にこんなに疲れていたのかとも思う。
それでも、ショッピングや街の中の散歩は恋しいから、わがままなもんだな。
オンラインのリミット
オンライン飲み会というのを初めてやった。誘われるたびに断っていたのだが、誘われたのが違う国に住む友達ということもあり、久しぶりに顔を見て話そうという思いもあり、参加した。
オンラインでは、飲み会のみならず会議などもそうだけど、物理的に会って集まるのとは違って、ずっと注目していなきゃいけないことで少し違う疲れ方をする。物理的に顔を合わせているときは、いると言うだけで聞いていると言う錯覚を作れる。もし全然聞いていなくても、顔を見たり一緒に食べたり同じ動作を共有していることで、相手は聞いていると思ってしまう。
オンラインでは、話し手が一人に限られる。なぜなら、オンラインでは、マイクが2人以上の声を拾って同時に共有することがなぜだかできない。誰かが喋っている間は、黙って聞いていなくてはならない。「はい」や「ううん」も邪魔になってしまう。場所を共有してる場合は、「うん」とか「そうですよね」などただの反応が相手の話を遮らずに可能。
外出禁止と同様にこれは慣れが必要なのか、いつまでもフラストレーションが溜まることなのか、まだ分からない。
先日のオンライン飲み会は面白かったけど、本当にフィジカルに会いたいのが本音。
沈黙
久しぶりに村上春樹の『レキシントンの幽霊』を読み返している。
(ここからネタバレです)
その中の「沈黙」を読んでいると、なんと示唆に富んだストーリーなんだと気づく。
長年ボクシングジムに通っている大沢が、人は殴ったことはあるかと聞かれ話し始めるのだが、大沢にとって一番嫌いな種類の人間として挙げられるのが青木という男だ。大沢は、「青木みたいな人間はどこにでもいます」という。一方で、青木の持っている「機会が来るまでじっと身を伏せている能力、機会を確実に捉える能力、人の心を実に巧みに掌握し扇動する能力」は誰彼にも備わってる訳ではないのだという。大沢にとって本当に怖いのは、「青木のような人間の言い分を無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中」だ。その大沢の言う「無責任な連中」の夢を見ると、大沢にとってそこには沈黙しかない。
聞き手の「僕」は、大沢に最初の質問をしたあと、この話が終わるまで間ずっと口を挟まない。話し終わった大沢は、少しの沈黙の後、ビールを飲みに行こうと誘う。そこで物語は終わる。
青木のような人間、彼を無批判に信じてしまう人々、それをずっと聞いている「僕」。この話をするのを本当はいやだと言う大沢は何者何だろう。
Day 30
2日前の20時すぎ、近所のみんなで医療従事者に拍手が終わろうかとしている時、フランス国家のマルセイエーズのイントロが流れ出した。マクロン大統領の国民への演説が始まった。1ヶ月の外出禁止令の延長、5月11日からの段階的な外出禁止の解禁が発表された。
大統領の会見の隣には手話通訳士がおり、画面の下にはマクロンが喋るたびに字幕が流れていく。字幕を打っている人がいるのだろう。typoがあったとしても、すぐに戻って直し、すぐに演説に追いついていく。
窓を開けて拍手したばかりだから、近所の人たちの大きなリアクションが聞こえてきたりする。サッカーの試合中継みたいだった。
この期に及んで、私はフランスの大統領制を分かってなかったんだなぁと思い知る。国の首長として、大まかな方針を決めていく大統領。それにしたがって、政策や細かい整備を整えて決めるのが首相をトップとした政府。だから、マクロンの演説は曖昧な点があったりしても、「これは政府が近日中に詳細を発表する」なのかと。
うちの近所には、20時の拍手の後に「マスクが欲しい!(On veux des masques !!)」って叫ぶ人たちがいるのだが、大統領の発言には「フランス人ひとりひとりがマスクを手に入れられるようにする」というのがあったけれど、蓋を開ければ、リスクにより接する可能性がある公共交通機関の運転手などが対象だったりする。国内でも始めたマスク生産がどこまで追いつくのかがまだ見えないというのも、あるのだろうけれど。
私はマスクは、日本から持ってきた2枚のハンカチを使って、輪ゴムを通し、キッチンペーパーをはさんで代用している。買い物に出るのも、5日に一回くらいに限られているから、全然間に合っている。
パリのアパルトマンは古い建物が多い。うちのも例に漏れず、とても古くて、壁は薄いしいろんな音が聞こえてくるんだけど、こういう時に、上の階のマダムの「もしもーし!」と電話に応対する声や、隣人の習い始めたばかりの(に聞こえる)トランペット、油を挿せばいいのにと1年前から思っているどこかの階のドアの開く音が聞こえてくると、生活は動いているなぁと思ったりする。
空は透き通った青で、太陽はさんさん。
Day 25
フランス政府から外出禁止例が出されて25日目。
この月曜日から、パリでは10時から19時の間の運動目的での外出は禁止となった。
少しずつ新しい暮らしにも慣れてきた感じがしている。この3週間ほどで、アイスを3度作り、編み物をはじめ、バーレッスンを再開した。ずっとスーパーになかった小麦粉が、近くのスーパーに入荷してきたのを見て、まだ棚に並んでない小麦粉の一つをとってもらって、ルンルンで買って帰ってきた。これからバナナケーキを作ろうと思っている。
仕事は在宅ワークになっている。ビデオ会議のときは前もって彼に伝えておいてるので、今のところアクシデントはない。
研究の方は、年末から始めた友人との勉強会を週に1度もしくは2週間に1度続けている。担当教諭からも元気か、と優しいメールがきた。
20代の前半で鬱を経験した身としては、こういう時に一人でないということ、太陽がさんさん照っていることの2点はすごく大きいと感じている。
フランスは、来週の月曜日にマクロンが外出禁止の延長を発表するようだ。昨日予定されていた発表は、月曜に延期された。その間に、外出禁止の効果を見て、欧州機構との経済援助の交渉を進めるようだ。
フランスでは、Covid19で1万2千人以上が亡くなっている(4月10日現在)。一日の犠牲者の数はまだ400人以上とされているが、ここに来て初めて病院での新しい設備の設置・入手が初めて減少したとサロモン保健相が発表している。
5月の終わりには外出禁止が解かれるといいな。
Day 19 de confinement
外出禁止が敷かれて19日目。2週間経つと少しづつ慣れてきた感じではある。
始まりは、3月12日のマクロン大統領の学校教育機関の閉鎖と全国統一市長選挙第一回投票の実施の発表だった。学校に勤務もしている私は、次の日次週からのテレワークの準備をした。もうこれから、散歩もショッピングも自由にできないと思い、マレ地区まで歩いて、ウィンドゥショッピングをして、うぐいす色のカーディガンを買った。それから全くお披露目されることなく、家で着るのを楽しんでいる。
2日後、友人宅でラザニアを作って楽しく飲んでいたところ、首相の発表があり、生活に不必要な店舗の営業をその日の深夜12時までで閉鎖するとされ、スーパー、薬局、銀行などの必要不可欠な業務のみ許可されるとのことだった。次の日の日曜日はスーパーからは早くもパスタとトイレットペーパーがなくなり始めていたと報道されていたが、幸運にも土曜日のラザニアのためにたくさん買い物をしていたので、ピクニックに出たいなぁと思いながら、外に出ずに一日過ごした。よく晴れた日だった。
3日後(3月17日月曜日)、「週末にレストランが閉まっているなら、公園でピクニック」と言う大勢の人が楽しんでいる状況も加味され、マクロン大統領が前回と同じ20時にまずマルセイエーズが流れ、発表が始まった。その内容は、翌日12時から14日間の外出禁止の発表だった。例外的に外出できるのは、必需品・薬の買い物、テレワークができない企業の従業員の出勤・帰宅、家周辺での運動・ペットの散歩。犬の散歩にも配慮。
それから、2週間の外出禁止では収まらずに、さらに2週間の延長に入った。
外出禁止から、バーレッスンを再開したり、筋トレをしたり、大葉を育ててみたり、お菓子を作ってみたり、毛糸を注文したり、色々初めている。結局の研究については何も手についていないのだが。。。
いきなりハイになったり、涙もろくなったり、気分も不安定になるのも、毎日ニュースを見ていればそうなるかと思ったり。外出禁止はまだまだ解かれそうにない。