ルーペと鳥瞰図

日記と作り話のようなもの。

日常への帰還

パリに戻った。パンデミックな世界で5ヶ月のフィールドワークを終えて、灰色の空と冷たい空気のパリに戻ってきた。すでに生活の基盤を外国に移して8年以上がたったのに、いつも母と別れるときは遣る瀬無い気持ちになる。これは、両親が私の幼い頃に離婚しているとか、母とは以前一時期私の精神的な理由から連絡を絶っていたからとか、そういうことと関係しているのかは分からないけれど、育ててくれた親の住んでいる国と私が住む国が違うというのは、そのことを改めて認識する場面になって、とてもつらいものがある。なぜ私はこの選択をしたのか。最寄りの駅から出ている羽田空港直行のバスの窓から見送る母を見ると、そういう疑問が湧いてくる。本能的には私の選択に確信を持っているからバスを降りることはないし、こんな気持ちを母に語ることもないけれど、感謝とか親孝行などという言葉からは程遠いことしかできていない自分に対して熱い何かが点火する前に、いつも空港に着いてしまう。パリに着くと、日常が待っていてその地理的・時間的な距離に甘えて、熱い何かも込み上げてくる瞬間もなくなってしまう。何をやっているのだろうと思いながら、論文や発表原稿にもほとんど手につかず、遣る瀬無さばかりがうずくばかりの日曜日。